(リンク)老年性難聴

①老年性難聴の特徴


・音は聞こえているが、会話が理解できない。
・騒音の中、複数の会話が飛び交う中での言葉の理解ができない。
・早口でしゃべられると理解できない。


老年性難聴は高音が聞き取りにくくなるという特徴があります。通常の耳鼻咽喉科診療で行う純音聴力検査ではそれほど聴力低下はなくても、 言葉を聞き取る能力が低下していることも多いです。騒音の中や、会議など複数の会話が飛び交う中での言葉の理解が難しくなることには、耳の聞こえの神経(蝸牛神経) の衰え以外に、脳内での言葉を区別する能力(中枢性聴覚情報処理能力)が低下していることも関わっています。早口でしゃべられると理解できないということは、 音の時間分解能低下が関与しています。周囲の方はゆっくりしゃべることが必要で、顔を見ながらしゃべることも言葉の理解の一助になります。

②いつ頃からはじまるのでしょうか?


・65歳を過ぎたころからはじまります。

聴覚器の加齢変化は30歳代ころにはすでに始まっているといわれています。
実際に聴覚検査で難聴が進行し、老年性難聴と診断される割合は、表のようになっています。

本邦における老年性難聴の有病率(対象者数 2194名)v
  男性 女性
65-69歳 44 % 28 %
70-74歳 51 % 42 %
75―79歳 71 % 67 %
80歳以上 84 % 73 %
(Uchida Y et al. 2012)

70歳を過ぎると約半数の方が老年性難聴になります。男性は、65歳過ぎたころから難聴が始まります。一方、女性の方が老年性難聴になりにくいようで、 アメリカなど海外でも同様の傾向があります。しかし、興味深いことに、スーダンのMabaan族に聴力検査を行ったところ、高齢に至るまで聴力が保たれていることが 報告されています。音の静かな環境、運動、粗食など環境要因が聴覚によい影響を与えているのかもしれません。

③なぜ老年性難聴は発症するのでしょうか?


・老年性難聴は、蝸牛(聞こえの神経)への酸化ストレスが蓄積することで発症します。

遺伝的要因が強くかかわっていますので、ご両親が、耳が遠かった場合は同じように難聴になる可能性があります。 遺伝的要因以外では、騒音曝露、糖尿病、心疾患、動脈硬化、喫煙が難聴の進行を早めることが報告されています。

老年性難聴の発症機序については、動物実験の結果から酸化ストレスによる蝸牛内細胞の障害が推測されています。 内耳の蝸牛といわれる部分には、有毛細胞、らせん神経節細胞、血管条があり、聴覚に関わっています。加齢に伴い酸化ストレスを受け続けることで、 蝸牛内のミトコンドリアDNA変異・蓄積を引き起こし、さらに、有毛細胞、らせん神経節、血管条が傷害されていき、難聴が進行していきます。 蝸牛への酸化ストレスには、騒音の曝露、動脈硬化による虚血、喫煙などがあります。

④老年性難聴を予防する方法はあるのでしょうか?


・大きな音を避けること、また、動脈硬化を予防することが老年性難聴の予防につながる可能性があります。

酸化ストレスを少なくすることが老年性難聴の発症予防になります。したがって、若いころから大きな音を聞かないようにすることは有効だと考えられます。 動脈硬化を予防し、蝸牛への血流を良好に保つことも有効です。動脈硬化予防のため、不飽和脂肪酸を含む魚を食べることはよいことだと考えられます。 ポリフェノール、コエンザイムQ10、ビタミンE、ビタミンCなどサプリメントも、医学的根拠に乏しいですが、有効かもしれません。

カロリー制限は酸化ストレスを確実に軽減する方法で、哺乳類の寿命を延ばすことがマウスやサルによる検討で明らかになっています。 老年性難聴に対しても、進行を確実に抑えることができる方法です。ただし、栄養、筋力維持、人生の楽しみといった老化以外の観点も大切ですので、 極端なカロリー制限は禁物です。暴飲暴食をやめ、カロリー控えめなバランスよい食生活を送ってください。

⑤補聴器は早めにつけた方がよいでしょうか?


・脳における聴覚処理機能低下・認知機能低下 の予防という観点からは早期の補聴器装用が勧められます。

聞こえないまま放置しても、検査上の聴覚は低下しませんが、長期間、脳への聴覚刺激が少なくなり、いわゆる「難聴脳」の状態に変化していきます。 このため、聞き取る力が低下してくる可能性があります。聴覚トレーニングを長期間行うことで、脳の聴覚機能が改善し、会話を聞き取る力が回復することが報告 されています。補聴器を装用することで、「難聴脳」の回復が期待できます。ただし、補聴器を早期に装用することで、老年性難聴の進行を遅らせることができるか どうかについては、根拠となる研究がまだありません。

最近、難聴が認知症の独立したリスク因子であることが明らかになっています。639名を約12年間追跡したところ、難聴者の認知症発症リスクは1.89-4.94倍で あったことが報告され(Baltimore Longitudinal Study of Aging)、平均年齢77歳の高齢者1984名を6年間追跡したところ、難聴者では認知症発症のリスクが24%高かった ことが報告されています(Health ABC Study)。こうしたことから、世界的にも難聴者へ補聴器装用を勧める動きが活発になってきていています。 現在、補聴器装用により、認知症の進行を遅らせることができるかどうかについての研究が各国で行われています。 注意すべきなのは、補聴器は通販やインターネットで購入できるようになっていますが、アフターケアが十分でないことが多いです。 補聴器は個人に合わせた調整・フィッティングがとても大切ですので、耳鼻咽喉科を受診するか、認定補聴器技能者が常駐している販売店で購入することをお勧めします。

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